読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

よくかんでたべること

そのままのみこまずに、ね。

「暮しの手帖」とわたし

暮しの手帖を立ち上げた大橋鎭子さんの半生記。名物編集長の花森安治さんがお亡くなりになるまでの記録である。
私は暮しの手帖が好きだと言いながら、今の今まで暮しの手帖は花森さんが創始した雑誌だと誤解していた。

戦後の混沌とした世の中は男性ですら糧を稼ぐのに苦労していた時代、ましてや女性一人で一家を支えるほどの経済力を持つには?一家の大黒柱である父親を亡くして母と妹二人を幸せにするにはどうすればいいだろう?と大橋さんは考えていた。

大橋さんは同時の勤め先の編集長に相談した。自分は早くに父親を亡くし、それまで母や祖父に支えられて女学校に出してもらえた、と。

以下引用。
こんどは、私が母を幸せにしなくてはなりません。祖父にも恩返しをしなければなりません。それには、人に使われていたのでは、収入が少なくてどうにもなりません。自分が何かしなくてはと、いろいろ考えましたが、私は戦時中の女学生でしたから、あまり勉強もしていなくて何も知りません。ですから、私の知らないことや、知りたいことを調べて、それを出版したら、私の歳より、上へ五年、下へ五年、合わせて十年間の人たちが読んでくださると思います。そんな女の人たちのための出版をやりたいと思いますが、どうでしょうか。

私は論理的な考え方は得意ではないので、この主張が論理的かどうかきちんと分析はできない。ただ、なぜを繰り返して筋がまっすぐ通った時のような快感を覚えた。大橋さんの言葉が柔らかくまっすぐ届くのは、根底の主張がしっかりしているからなんだなと改めて思った。

これがきっかけで編集長は当時の敏腕編集者、花森安治さんを大橋さんとつなぎ合わせたのだった。

花森さんも理想があった。戦争のない世の中にするためのものを作りたい、と。

以下引用。
国は軍国主義一色になり、誰もかれもが、なだれをうって戦争に突っ込んで行ったのは、ひとりひとりが、自分の暮らしを大切にしなかったかららと思う。もしみんなに、あったかい家庭があったなら、戦争にならなかったと思う

そうして話し合いを重ねた結果、暮しが楽しく豊かになるような、役に立つ雑誌を作りたいという方針が決まった。
まずは、誰もが持っている着物を使った直線裁ちの服を紹介する「スタイルブック」が誕生した。
そして数年後、スタイルブックは「毎日の暮らしに役に立ち、暮しが明るく、楽しくなるものを、ていねいに」する雑誌、暮しの手帖に生まれ変わった。

大橋さんは本の冒頭で花森さんとの出会いを、タイミングと決断がどんなに大事か、と綴っている。
それに加えて、大橋さんと花森さんのそれぞれ「女の人たちのために情報を提供したい」「戦争をなくすためにあたたかな暮しを」というはっきりとした理想があったことを強調したい。
最初は二人の構想から始まった理想の雑誌は、途中方針を変更しつつも二人に賛同する人々の力が集まって内容も深みも増した。

明確な理想が原動力となり、人を惹き付ける。軸があるので方向転換してもぶれない。
ああ、リーンスタートアップに書いてあることとかぶっているぞと、安易にかじった知識とたやすく結びつける自分にちょっとがっかり。。。

でも、この本が読めて本当によかった。

休憩ののち花森さん亡き後のことも書きたいと、大橋さんは締めくくっていた。私もぜひ知りたいので続きを心待ちにしています。でもくれぐれも無理をなさらないようにお願いします。